日本財団 図書館


 

3)精神的財産として
これは、子供の成長に大きく関わる財産である。人間の脳は、生まれてから12歳位までの間に成長すると言われている。その間、子供たちは、日々、周囲から視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚の五感を通して様々な刺激を脳に受ける。このことが、脳の神経の健全な発達を促すと同時に、感受性や自己防衛能力・創造力といった必要な能力をも身につけることにつながっていくのである。
子供の成長段階で、自然体験をするということは、様々な生き物を見るといった視覚からの刺激、野鳥のさえずりを楽しむといった聴覚からの刺激、野草の匂いをかぐことでの嗅覚からの刺激、といったように五感の全てが遊びを通して活発に働き、脳に多様な刺激が送られることになる。
ヨーロッパでは、「自然は子供にとって最大の教師である」と言われる。この言葉が意味する中には、自然体験が、環境を考え行動する際の素地を育成するだけでなく、子供が社会で生きていくための基本的な能力をも身につけることを示している。

 

4)野生生物の生存権
これまでに挙げた、物質的、環境的、精神的という三つの理由は、人類にとっての価値観がその考えの中心にあるものだが、近年注目されている考え方として、「尊厳主義」というものがある。これは、私たち人間にとっての価値という観点からではなく、野生生物自身にも生存権があり、一種一種かけがえのない価値と尊厳があるという考え方である。1995年には、鹿児島県奄美大島のゴルフ場開発問題で、アマミノクロウサギなど奄美大島に生息する4種の野生生物を「原告」として表示し、生存権を訴える「自然の権利」訴訟が起き、話題となった。同じ年には、茨城県内の自然保護団体が、渡り鳥の一種であるオオヒシクイを「原告」として、関東唯一の越冬地である霞ヶ浦周辺の鳥獣保護区の拡大を訴えている。また、長崎県の有明海諌早湾の干拓事業では、湾内に生息するムツゴロウを原告にして干拓工事の中止を求める裁判を起こしており、野生生物の生存権を行政や司法の場で訴える運動は、我が国でも近年活発に行われている。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION